元文系の女子大生が選ぶ、医学生に読んでほしい本10選: Home

医師でありながら、芥川賞を受賞した才能あふれる筆者の自伝的小説です。
あらすじには以下のように書かれています。
「新設間もない秋田大学医学部に、挫折と不安を抱えながら集まった医学生たち、和丸、京子、雄二、修三の四人は、解剖に外来実習に、失恋に妊娠に患者の死に悩み、あたふたしながらも、自分の生き方を探っていく。そして、彼らの十五年後――。自らの体験を振りかえりつつ、人生の実感を軽やかに爽やかに綴る永遠の青春小説。」

主人公とその友人が入学してから卒業するまで、そして卒業して数年後が書かれているので、どの学年に所属する人にも共通する部分があって面白いのではないでしょうか。また、女子医学生の複雑な立ち位置や、再受験生の悩み、学校（勉強）が嫌いで遊んでばかりいる男の子など、この学部ならではの「あるある」がたくさんつまっています。宮崎大学にくるはずじゃなかったというもやもやを抱える人や、せっかく医大生になれたのに、いまいちぱっとしない日々に少しうんざりしている人にはぜひ読んでほしい本です。

筆者は東大医学部出身の解剖学者、発生学者。かつ東京藝大の講師。その圧倒的肩書とは裏腹に、保育園での講演会を元に作成されていることもあり、面白おかしい口調で人体発生と生命の不思議に迫ります。絶対一度は読みながらくすりと笑ってしまうユーモアと、内臓感覚と宇宙のリズムという壮大な作者の仮説が展開される内容にどんどん引き込まれます。読後は、「人間が生きているってすごいなあ」という幸福感に包まれること間違いなし。
特に今から発生学を習う方におすすめです。試験勉強で発生学が嫌いになる前に、三木さんの本で免疫をつけましょう！

作者は一時代前のロシアの医師（1891-1940）。
「犬の心臓」ではマッドサイエンティストが犬を人間に仕立て上げてSFドタバタ劇を繰り広げる。（個人的には犬の睾丸と下垂体を人間のものと入れ替えた、といった記述が気になりました。人間を人間たらしめているのはこの二つの臓器だけなのか…？？と思わないでもない。）「運命の卵」は不思議な光線を浴びた卵から巨大なアナコンダが生まれ、ロシアの街を脅威に陥れるという、これまた痛快なB級映画のような話。

どちらの話にも共通して科学の危うさや、当時の社会体制に対する強烈な批判が込められています。彼の小説が何度も発禁処分を受けたのもうなずける内容です。しかもあの残忍なスターリン支配下のロシアでこれを書いたというのだから、作者自身のパンクぶりには、2018年宮崎から盛大な拍手を送りたい。知性と、ユーモアと皮肉。そして時代を恐れず己の主張を叫ぶ態度。目指すべき医師像、というよりも人間像を学べます。

「えらい古臭い本を紹介したな！」と思われるかもしれないけれど、お笑い好きの人には特にモリエールの喜劇に触れてみてほしいです。「医者」という立場に代表される「権威」を小気味よく皮肉って笑いに変えています。これぞ、お笑いの醍醐味。
内容は女房に殴られて無理やり医者にされる亭主のドタバタ劇です。とてもテンポよく話が進むので、「岩波文庫だしなあ…」などと気負わず、お気軽に手にとってみてください。あまり大きな声で言えませんが、たまにふんぞり返っている「おえらいお医者様」をみると脳内でモリエール劇場をスタートさせています。

「死者の奢り」
読んだ瞬間から「あっ、大江さんの本だ」とわかる饒舌でエモい文体があますところなく発揮されています。表題作は大学の地下の水槽に浮かぶ解剖用の死体を、新しい水槽に移すアルバイトの話です。戦後文学を代表する作者らしく、戦後の鬱屈とした雰囲気やアメリカへのコンプレックスも含まれていますが、なによりも普遍的なテーマである死と生について考えさせられます。
この作品を書いた作者は当時22歳。解剖実習中の2年生とは年がかなり近いのではないでしょうか。「死者」を前にしてあなた自身は何を感じ取りましたか？試験に向けて人体の構造等を追いかけることも大切ですが、大江さんの文章を通して一度じっくり向き合ってみませんか？

※他の作品もおすすめですが、体力をかなり削り取られるので元気いっぱいか、これ以上落ちるところはないぐらい落ち込んだときによむことを推奨します。

就職活動を目前に控えた男女がお互いに協力しあおうという名目のもと、一つの部屋に集まるところから話が始まります。けれど、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音や自意識によって、彼らの関係性は次第に変わっていきます。どの登場人物に共感して読み進めていたとしても、自分自身に潜む弱さやエゴに追い打ちをかけられるので「もうやめて」と叫びたくなります。でもページを繰る手は止まりません。さすが直木賞受賞作。
多くの日本の学生が経験する就職活動に、幸か不幸かあまり縁のない医学生にこの本をすすめるのもどうかと思われるかもしれません。けれど、そんな「医師になる」という明確な目標とアイデンティティのある安全地帯にいるわたしたちにも、浅井さんは迫ってきます。「医学生」「医師」という社会的な肩書を取り払ったあなた自身はいったい「何者」なのか？
医学という進路にモヤがかかり始めたあなたにぜひ、登場人物たちと一緒に傷つきながら読んでほしいです。

医学部に在籍しているとカリキュラムや立地の問題で、どうしても学部以外の人々と出会う機会は少なくなってしまいます。ましてや詩人と言葉を交わすことはほとんどないでしょう。この書籍には、医師の徳永進さんと、詩人谷川俊太郎さんの往復書簡と対談が記載されています。立場の異なる二人がどのような対話をし、どのような化学反応が生まれるのか、直接お話しすることはできなくともぜひ彼らの会話に耳を傾けてみてください。
徳永さんは鳥取県でホスピスを経営されており、そこでの患者さんや彼らを取り巻く人々の日常を優しくつづっています。終末期医療の現状だけでなく、患者さんそれぞれの「生」のあり様がみえてくるでしょう。そして谷川さんは詩人のやり方で、つまり詩や散文で徳永さんの言葉に応えます。二人の表現の仕方の違いも興味深いのですが、なによりも、互いにインスピレーションを与えながら形成される言葉や思考に、往復書簡ならではの良さを感じます。ほっこりしたい人に読んでもらいたい一冊です！

慶応義塾大学（医学部）卒業に何度もうなずける、まさにCOOLさ全開の前衛的詩集です。二足のわらじをはくドクターの中で、ここまでアートな作品を発表している人はいないのではないでしょうか。この本を机の上に置くだけであなたのおしゃれさが爆上げします。今まで紹介してきた本がかしこまっていて、いまいちピンとこないな…と紹介文をながめていた方におすすめです。ちょっとページをめくってみてください。驚きの連続が待っています。「昭和」「モダニズム」というワードに心ひかれる方にも。

今更わたしが紹介するまでもない名作中の名作。医学生の6年間の生活の中で一冊だけ読むとしたら、この本をおすすめます。「余韻はんぱない系小説」NO.1。ご存知のようにナチスの強制収容所における極限体験をもとにした、ユダヤ人精神科医の著書です。人の生が脅かされる筆舌に尽くしがたい状況の中で、心理学者として周囲の人間を分析しながら「人間性」とは何か、「生きる」とは何かを冷静に語りかけてきます。個人的に最も印象に残っているのは、ある収容者が「夕陽があまりにもきれいだから外へ出ろ」と他の仲間たちに呼びかけた場面です。ナチスの理不尽な暴力にすら奪われない「美」を享受する人の心、あるいは享受する自由を持つところに人間性の一つの側面が照らされているような気がしました。

最近、某テレビ番組で特集が組まれていたため、ご存知の方もいるのではないでしょうか？彼女は私と同じく、20代の途中で医学に転向します。それまでは古典文学などいわゆる文系の道を歩んでいました。ところが、当時差別の対象とされていたハンセン病患者の療養施設を訪れてから、医学を志すようになります。施設では精神科医として、「生きがい」について患者さんたちの「生」と謙虚に向き合いながら、今まで培ってきた豊かな教養をベースに考察します。「理系」の最たる分野と言われる医学と、文学をはじめとする「文系」的な分野はあまり接点がないように思われるかもしれません。けれど、両者とも人間とは何か、生きるとは何か、死とは何かについて考える学問であるという根本的なところでつながっています。自分の研究分野の論文や教科書を読んでいればいいや、と構えている人も一度気になる本に挑戦してみてください。新しく、しかしどこか慣れ親しんだ世界が広がっています！