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医学部教授の「座右の書」: 医学科

宮崎大学医学部教授の「座右の書」を、先生のコメント付きでご紹介します。先生方は、どのような図書を傍らに置いているのでしょうか。

天野正宏教授(皮膚科学)

新竜一郎教授(感染症学・微生物学)

帖佐悦男教授(整形外科学)

平井俊範教授(放射線医学)

石田康教授(精神医学)

徐岩教授(物質科学)

DNAの二重らせん構造が発見されてから半世紀、DNAという言葉はすっかり常識化している。

しかし、その構造を明かすためのワトソンとクリックという若い二人の科学者の厳しい努力は、あまり知られていないように思える。この本から、それがリアルに伝わってくる。科学者仲間の協力だけでなく確執や嫉妬もすさまじい。彼らが、二重らせん構造をとらえるに至る過程でのポーリングとの先陣争いのつばぜり合いも熾烈である。

そして、明らかになったDNA構造の分かりやすさと美しさがすばらしい。

真理は、常に分かりやすく美しいものなようだ。生命科学に携わりたい若い人たちに、この本は必読だ。

北村和雄教授(循環体液制御学)

小松弘幸教授(医療人育成支援センター)

丸山治彦教授(寄生虫学)

森下和広教授(腫瘍生化学)

中村都英教授(循環呼吸・総合外科学)

直井信久教授(眼科学)

人間は神様ではないので誤診もするし、Opeで失敗もする。この本は自分の様々な失敗をあからさまに書いている。その勇気に感動した本。イギリスの脳外科医も過酷なんだなあ、と実感。

 

座右の書と言うには新しい本だが最近読んで最もおもしろかった本。

日本人がなぜこんなに熱心に仕事して長時間働いているのに1人当りのGDPは世界27位、と生産性が悪いのか考えさせられる本。

 

落合秀信教授(救急・災害医学)

鮫島浩教授(産婦人科学)

澤口朗教授(超微形態科学)

佐藤克明教授(免疫学)

武谷立教授(薬理学)

横山彰三教授(英語)

座右という程ではありませんが、若い人におすすめの本です。

湯川修弘教授(法医学)

 私は昭和54年(1979年)、現在のセンター試験の始まりである共通一次試験の第1回の入試で本学の前身である宮崎医科大学に入学しました。宮崎医科大学を受験したのは偏差値、二次試験が数学、物理、化学で英語ができない私にぴったりであったこと、そして宮崎にはそれまで行ったことがなかったのですが温暖であろうと思ったことです。小学生のとき年の離れた兄から出された次の問題が解けなかったことから、電気や電子機器に興味をもちました。ただしラジオもろくに組み立てられず今もそれがトラウマです。

問題

 電圧1.5Vの乾電池(以下電池)2本を直列につなぐと電圧は3V、並列につなぐと1.5Vです。では3本の電池を次の図のようにつなぐと何Vでしょうか。

 答えは各電池の内部抵抗が等しいと仮定して2V(3Vと1.5Vの調和平均でこの場合3Vと1.5Vの3:1.5の内分)ですが、この特殊な電池の並べ方は実際には絶対にしないでください。直列や並列では豆電球やモーターなどをつながなければ電気は流れませんが、3本の電池の間で電気が勝手に流れて大きく発熱し、火事になるおそれがあります。

 物理や化学が得意なつもりで入学したのですが、1年生の後期からの量子力学が全く分かりませんでした。また2年生の後期からの生理学や生化学では、膜電位の式や化学ポテンシャルの式など出てくる式にはもれなくといってよいほど対数がついてきますが、なぜ対数なのかが理解できず、式だけ暗記して他にいくらでもある覚えるべきことを勉強するのが合理的であるとわかっていながら、そこから先に進めなくなってしまいました。そのような時に時間がかかりましたが読んだのが、次の2つの本です。

 いずれも大学新入生向けです。だいたい高校範囲の数学で書かれています。古い本ですが今もアマゾンには出ており少しびっくりしました。このうち『化学熱力学』によって、対数が必要な理由が何となくわかりました。ただしマクロ(古典熱力学)とミクロ(統計力学)の中間的なアプローチで書かれたこの本は少し中途半端な感じがあり、現在もっとわかりやすい本が他にたくさんあると思います。しかし『化学結合』の方は、数学は得意ではないが、医学や生命科学の基礎といえる量子論について最低限どんなものかを知っておきたいというみなさんにお薦めできるものです。私の専門は法医学ですが、極論すれば法医学的に問題となる死のほとんどが脳と心臓の酸素不足に帰結されます。また中毒で最も多いのは一酸化炭素中毒であり、酸素(O2)や一酸化炭素(CO)がどのようなものであるのか少しはわかったつもりになれます。例えば、メタンやエタンの構造を説明するのに次の電子式が良く使われます。

しかし、酸素(O2)についてはあまりみられたことがないと思います。強いてここで正しくはないことを承知で書けば次の2つの状態を併せもつということになろうかと思いますが、もしも興味が出たならば本をめくってみてください。

 なおいずれも1回しか読んでおらず座右の書とは言い難いものですが、次の2つがここ数年で読んだ中で記憶に残っているもです。

 高校の化学で必ず習う反応がカルボン酸とアルコールの脱水反応によるエステルの生成です。大学院の時に電気泳動した蛋白質を染色するのに酢酸とエタノールを使っていました。その際に特有の臭いがしてそれがリンゴの臭いの成分の一つである酢酸エチルであることを知りました。化学式は

です。つまりエタノールの方の酸素(O)がエステルに残るのですが、なぜ

とはならないのかがずっとわからないままでした。『生化学反応機構』はその疑問に答えてくれるものでした。生化学の主に代謝に関する反応が、電子の移動としてどのように起こるかが詳しく説明されています。医学や有機化学などの本を読んでどうしてこのような反応が起こるのだろうと感じることがある人はぜひ読んでください。

 ここで電池の話に戻ります。私が小さいころ不思議だったのが大きい単1電池も小さい単4電池も電圧にかわりがないことでした。高校の化学で電圧は電池の大きさではなく電極と電解質の種類の組み合わせによって決まることを教わり一応疑問は解けたのですが、なぜ電池の電圧は、ニッケル水素電池の1.2Vなど少しの違いはあるものの、1.5Vであるのかがわかりませんでした。そのような疑問に答えてくれるが④高校で教わりたかった化学です。この本を読むと電気というエネルギーが、他の形態のエネルギーと比べていかに質の高い(いろいろな仕事をなしうる)ものであることや、逆にいうとそのような質の高いエネルギーを一旦化学物質からなる電池として蓄えるのにいかに多大なコストを要するかがわかります。単3電池8本は1000円ほどですが、それから取り出せるエネルギー(電圧×電流×時間)は、家庭のコンセントから直接とれば1円で済むそうです。

 宮崎大学にはハイブリッド車に乗っている人が多く、私もそうでしたがみなエコロジーを意識して購入されたのではないかと思います。しかし大型充電池を有する車両を製造するときに要したエネルギーなどを含めると本当に通常のガソリン車と比べてエコロジーなのかわからなくなってきました。そこで『高校で教わりたかった化学』の著者の一人の渡辺教授が中林誠一郎教授と共著された「電子移動の化学-電気化学入門」朝倉書店(1996年)というより専門的な本を購入してみたのですが、歯がたたないままです。

 最後に法医学の教科書について一言触れます。現在医学の知識は膨大でほとんどの分野でこの本さえ一冊読めば何とかなるというような教科書はないと思いますが、法医学にはそれがあります。

 この本は英国の大家Knight教授が最初一人で書かれたもので、書名は単に「Forensic Pathology」でした。Knight教授退官後、フィンランドのSaukko教授が引き継ぎ改訂第3版から「KNIGHT'S Forensic Pathology」となりました。自国語の教科書がない国々ではほとんどこの本で法医学が学ばれています。欧州や日本のように自国語の教科書があるところでも「ナイトに書いてあるとおり・・・」あるいは「ナイトにはこう書いてあるが、それとは違って・・・」という形で議論となることが多く、事実上の世界標準となっており改訂第4版が出版予定とのことです。

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作成日:2015年4月

2015年度に附属図書館医学分館で実施した『医学部教授の「座右の書」』展の展示図書です。

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